大切な土のこと

人は、土に育てられている

人は、土に育てられている

人が摂取している食べ物の99.7%は、土から育ったもの(※国連食糧農業機構・FAOのデータより)であることを、ご存じですか。私たちは、食べなければ生きていけません。すこやかに暮らすためには、食べることと同様に食べ物を育てることが必要です。

それらを育む土がどのように管理されているのかということは味や栄養、日持ちなど「食の質」にも影響を与えます。

農業に土の再生が取り入れられることで、農地と私たちの食卓がつながります。土は、私たちの日々の生活に大きな影響を与えているのです。

土は、水を循環させる

土は、水を循環させる

実は身近な存在である土にとって、何よりも重要なのは作物の生育に適した状態を維持していくこと。砂漠化や極度の劣化、土壌の侵食などが進行すると不毛の大地が生まれます。

命を育む自然の水が循環する際、最も重要な役割を果たしているのが土。山に降った雨は地中に染み込まず、表面を流れて土を削り、濁流となります。すると地下水や湧き水を生む機能が損なわれ、山や森から土がなくなって…植物は根を張ることができなくなり、栄養分や水を吸収できなくなった山は岩だらけの姿になるため、森や草原は今とはまったく異なる風景に変わります。

植物が育たなくなると、空気中の酸素や二酸化炭素の量にも影響を及ぼします。こうして土は直接的、間接的に私たちの暮らしに関わっているのです。

土は、私たちの命を支えている

土は、私たちの命を支えている

春の桜、秋の紅葉、ススキなど…私たちが四季折々に楽しんでいる風景の下には必ず土が存在し、その土地の自然環境を豊かに育んでいます。

動物はもちろん、昆虫や微生物に至るまで、食べ物を得る場所として、生きていくためのすみかとして、土は生き物にとって欠かせない存在です。

私たちをふくむ多様な命は、土から始まる食物連鎖に支えられて今日も生きているのです。

土が変わると、世界が変わる

土から考えるという視点

土から考える、という視点

公園や住宅の庭を新しくつくる時、関西では一般的に真砂土(まさど)が使われています。真砂土には雑草の種や病原菌が含まれておらず、扱いやすい一方で、多くの植物の生育には適していません。

また、適切な土の管理方法が施工後に考慮されるケースはほとんどないのが現状です。たとえば、落ち葉をきれいに掃き清めると土を保護する緩衝材がなくなってしまうので、雨風をはじめ、人や生き物によって土がどんどん削られていきます。

農業の世界でも、主な関心事は肥料や農薬などの散布について。植物に合わせた土を準備して正しい管理をしよう…という議論を起こしていくことが、今すぐにでも取り組むべき課題です。

土づくりは、自然が先生

土づくりは、自然が先生

人が手を加えていない森の中では、土と植物がバランスを保ちつつ、持続的な仕組みを構築しています。

「土づくりは自然から学ぶ」という古くから伝わる言葉は、自然がすぐれた教師であることを意味しています。とはいえ必ずしも、人が管理すると土が劣化して使い物にならなくなるというわけではありません。管理の仕方によっては自然の状態以上によくなって、劣化を止めることも可能です。

土を管理する際の新しい常識として、今後は「土の劣化を抑制して再生させる」ことを実行していかなくてはなりません。

土が生まれる仕組み

土が生まれる仕組み

自然の中でも、人がつくった公園でも、土がつくられるプロセスを見ることは可能です。

土を適切に管理していくためには、自然の中でどのように生み出されているのかを知っておくことが大切です。

スタートは「太陽エネルギーと、植物というソーラーパネルの活用」から。植物は太陽のエネルギーを受けて育ちます。生育を終えた植物などはバクテリアや菌などの生き物のエサになり、これらの微生物は大きな生物に食べられて…食物連鎖が生じます。

田畑でも公園でも家庭でも、土がつくられる基本的なプロセスはこの自然のモデルを参考にすることができるのです。

  • 落ち葉堆肥 → 山の中などでは、太陽エネルギーを受けて育った樹木の葉がそのまま土へ還っていきます
  • レンゲ畑 → 農地では、太陽エネルギーを受けて生育したレンゲの葉や花、根が土へ還っていきます。
  • 敷きワラ → 太陽エネルギーを受けて、米・麦が生育。土を保護し、水の蒸発を防いで生物の生きる環境をつくるために、脱穀後のワラを作物の周辺にかぶせます。

土の再生が、世界を変える

土の再生は現代の問題を解決する

  • 気候変動を解決
  • 生物多様性の回復
  • 食べ物の質の向上
  • 飢餓・貧困を解決
  • 有害・汚染物質の分解
  • ゴミの削減
  • 水の保全・水質向上
  • 健康向上・医療費削減
  • 植生の回復・植物の生育促進
  • 酸性雨などからの緩衝
  • 空気の質が向上
  • 海や湖など、生物の環境を快適に

農地や身近な環境で土を再生できれば、現代社会が抱える多くの課題を解決へと導くことが可能です。土の機能は、植物を育てたり、支えることだけではありません。水の循環サイクルでは大切な機能を果たしており、土に侵入した有害物質を分解する他、酸性雨の影響を緩和。河川や湖、海の生態系にすぐれた効果を発揮します。

また、草木や家畜の排泄物、生ゴミを適切な状態で土にもどすことによってゴミが減り、土は肥沃になっていきます。

土は、私たち人間の食べ物だけでなく、バクテリアや菌類などの微生物にも作用するため、生物の多様性がは幅広いレベルで守られることになるのです。飢餓や貧困に苦しむ地域で土が再生されると、作物の収穫量が増え、水や燃料などに用いる樹木の生育もよくなって食べ物の質や栄養価の向上に影響を与えます。

「土の再生」を社会の仕組みに織り込んでいくことは、さまざまな課題の解決につながっていくのです。

“土壌を再生すれば、発展途上国を悩ます飢餓だけでなく、水不足や地球温暖化に対処する道も開けてくる”
ナショナルジオグラフィック 2008年9月号 『食を支える土壌を救え』 より

92億人を救う土

食べ物の質や栄養

2000年には約60億人だった地球の人口は、2050年には約92億人に達すると予想されています。32億人増える人口を、今と同じ面積の農地で支えていくには作物の収穫高を増やさなければならず、1940年代からの「緑の革命」をもう一度起こす必要があると言われています。

現在、新しい「緑の革命」を起こすために遺伝子組み換え作物や高収量品種の開発が進められていますが、決定的な解決策はそれだけではありません。種や品種だけでなく、土の状態も作物の収穫高に大きな影響を与えているのです。

土を耕すという常識

土を耕すという常識

アメリカやブラジルなどでは、耕さない栽培法である「不耕起栽培」が普及しつつあります。耕すことは収穫量の減少につながると思われますが、管理次第では逆に収穫量を増やすことにも繋がります。

作物によっては、耕すことで生じる土の劣化や耕すためのコスト、収穫量の維持を考慮すると、耕さずに管理するほうがよいことが明らかになってきています。今、人類を生かす食を支える農作物の多くは、比較的肥沃な土のある地域で栽培されています。

これは、何千年という時をかけて自然がたくわえてきた資産に頼って収穫を続けていることを意味しています。

今こそ、土を見直そう

今こそ、土を見直そう

土は、無限に存在するものではありません。自然が生み出してきた土を失うと、回復させるには何百年~何千年という時間が必要です。土を再生させながら食料を生産する方法はコスト面でプラスになるうえ、収穫高も向上し、災害に強いことが明らかになってきました。

また、除草剤や化学肥料などを使わずに、それまで以上の収穫高を維持する栽培方法の研究も進んでいます。人口92億人の時代の食糧を考えるうえで、食を支える資源としての土の機能を見直す機会は、今後ますます増えていくことでしょう。

これからの土づくり

土は、自然に生まれている

土は、自然に生まれている

山の中では、100年間で約1センチの土が生み出されていると言われています。人の手が入らない自然の中では表土が少しずつつくられ、土が増えているのです。肥料の袋や園芸、農業の本などでたびたび目にする「土づくり」という言葉。本来の「土づくり」とは、自然の中で土がつくられる過程を指すべきです。これからは自然をお手本に「農地や家庭などでは、どうすれば土を増やしていけるか」を考えることが大切です。

土の個性を見つめてほしい

土の個性を見つめてほしい

気候や降水量、地形などが異なると、そこに存在する土もそれぞれ違っています。どうやって土づくりをするかということよりもまず、その土がどんな個性を持っているのかを理解することが必要です。

土が抱える問題点、対応策もさまざまです。

多様なケースがあるためマニュアル化できず、本や雑誌などで取り上げられることもほとんどないのが現状です。自分自身でその土地の個性を見つめ、土を観察したり触ったり、穴を掘るなどして確かめてみることが、土を知る一番の近道。そして、その土ならではの個性を活かせるように工夫することが大切です。

もともとは同じ土から生じる、良い土と悪い土

もともとは同じ土から生じる、良い土と悪い土

同じ土地にある土でも、管理方法が異なると状態には差が表れます。通気性がよく、保水や排水がスムーズにおこなわれるコロコロした塊(団粒)のある状態が理想的。同じ土でも、適切な管理をおこなうことで有機物が増えて、色は黒っぽく変わっていきます。

有機物が多くなると、さらに土の機能が高まります。特殊な機器や専門機関での分析が必要となりますが、栄養やpHなどは重要な指標となるため、確認できれば理想的です。

土は、適切な管理でよみがえる

土は、適切な管理でよみがえる

右の写真の農場の土は、もとは赤土。粘土質の多いやせた土でした。1人の農家さんが改善に取り組んだ結果、「赤い土の粒子」状態とは別の、濃い茶色で通気性の高いフワッとした土に変貌。作物の生育や保水力なども向上しました。

「人が管理する=自然破壊」という根強いイメージがあるようですが、土の状態をよりよくしながら適切に管理している例はいくつもあります。

土の管理がうまくいくと、目で見てわかるほどの変化が表れて、植物の生育や周囲の環境も大きく改善していくのです。

公共の場を、土から見つめる

公共の場を、土から見つめる

公園、駅前広場、学校など…多くの公共施設には、樹木が植えられているスペースや花壇があります。落ち葉や雑草をきれいに取りのぞき、植えた植物以外は何もない状態になっている場合がほとんどで、土が劣化しているケースが数多く見られます。土の管理が正しくおこなわれると植物の生育がよくなり、景観も変わります。落ち葉や雑草を除去する代わりに土を長期的に改善していく方法を選ぶことで水やりの手間やコストが軽減され、豊かな自然の中にいるような空間を生み出すことが可能になります。(写真左:日本の公園、右:オーストラリアの公園)

個人の庭も、土から見つめる

個人の庭も、土から見つめる

家を新築する際には、まず決められた土が運ばれてきます。その後、野菜や花を育てたり、樹木を植えるなどして庭をつくっていくのが普通です。けれど現在、最初に土を入れる時点で「この土で植物がすこやかに育つのだろうか」と考えることはほとんどありません。野菜や花や木がうまく育たずに枯れてしまう時、その原因は最初に準備されていた土だったというケースが多いのです。

また、雑草の処理に追われるという庭も多くあります。除草剤をまいたり、コンクリートで埋めてしまうことが一般的な対処法ですが、土を再生させるという解決法が有効です。

ご家庭で土を管理するメリットは少ないように思われがちですが、雑草の生え方が変わったり、生える量のコントロールも可能になるのです。ご家庭で小さな生態系を育むことは、身近な場所に自然環境を生み出していくことにつながります。